神の住む島・バリ島旅行記2。

2日目。
この日は残念ながらガイドさん(ムラさん)の都合が悪く。
昼間はヌサドゥアのビーチでゆっくり遊ぼうと。そしてホテルに交渉して、
無理に車を手配してもらい、夕刻にウルワトゥ寺院を訪れよう、となった。
少し割高であったが、仕方ない。今後あるかも知れない機会への、勉強料だ。
考えてみれば、車さえ押さえておけば、旅程は後でどうとでも組めるのだから。

ヌサドゥアはほんま、リゾート専門のために開発された、リゾートの地。
この地区に入る時は、セキュリティチェックを受けるという徹底ぶりだ。
安全性、居住性はもとより、今日本で流行っている「おもてなし」の言葉なども
恥ずかしくなるほどの「おもてなし」ぶり。施設、調度品の一つ一つに至るまで、
工夫が行き届いている。「作られた世界」と言ってしまえばそれまでであるが、
ここまで完璧に作ってしまうのもすごいことだ。それだけを求めに来る人も
いるのだろう。自分はそれだけではやや寂しい口だが、それでも十分堪能した。

ホテルや施設のところどころにこういう祠や寺院が設けられている。いやたぶん逆で。
祠や寺院が先にあり、施設のほうが後回しなのだろうか。ともかくバリで驚くのは、
風景のどこを取っても、視界のどこにも、絶対祠や寺院があることである。
まさに人々は、神と暮らしているということが伺える。
ビーチでは、ぼけーっと寝転がって過ごす一方、時々思い出したように泳ぎに行き、
持参したシュノーケルなど楽しんでいたが。現地の人が寄ってきて、勧誘をしてきた。
浜でシュノーケルするより、我々の船で沖に出てみては?絶好のポイントがあるよ?と。
自分は怪しんだが、普段セキュリティ意識万全のヨメがどういうわけか乗り気で。
荷物をまとめて船に乗り込み沖に連れられた。うーむ。これってどのガイドブックにも
載っている典型的な、「戻りたければもう倍額払え」的詐欺ちゃうんかなあ…
それこそ、「連れて行くだけで、沖で放置」みたいなことになったりして…
と思い始めると気が気でなく。潜ってシュノーケルをしつつも、頻繁に上がって船に対し
視線を配っていた。船の兄ちゃんは、煙草を吹かしたり、弁当を使っているのみだったが。
海はそこそこ美しかったが、なんか見た気がしなかった。美も心のありようで醜くもなる。
疑うのも悪かったが、でも気も付けないかんからねえ(ヨメも途中から怖くなったとか)。

そしてウルワトゥ寺院である。ワヤンさんという運転手さんが連れて行ってくださった。
今回の旅行に際し、バリを舞台とした『花を運ぶ妹』(池澤夏樹)という小説を読んでいて。
そこでも、ワヤンという運転手が出てきていたので、こんな偶然もあるんだなと驚いた。
後でわかったがそれは偶然でも何でもなかった。(それはまた後日書くかも)
寺院に着く。サルに眼鏡を取られないように!という注意にびびっているのと、海岸の
美しい風景をもっと見たいのとで、ゆっくり歩きたい我々なのであるが。
引率のワヤンさんはザシザシと、人ごみを縫いながら進んでゆく。急ぐ必要があったのだ。
この寺院は、「ケチャッダンス」であまりにも有名。それを当然見なければならない。
と、会場の手前で、人だかりで大混乱している個所があった。「セリいち?」と見紛うた。
ワヤンさんは「ちょっと待っててください」と、その中に躍り込んだ。そしてしばらくの後。
カサンドラ監獄から脱出するケンシロウのように格好よく出てきた(わからないネタだ)
「チケットとれました。さあ行きましょう」 すげえ。ここにもひとり神がいた。
時間的にはまだ開始1時間前くらいだろうか。それでも少なからず人がいて。
日差しに閉口しつつ座って待っていると、次第に人が沢山入ってきて。椅子が全部なくなり。
後から来た人は前の方の地べたに座らされていた。椅子の最前列の人は、一番前と思って
喜んでいたところが、そんなことになって、見えにくくなって、不満げな様子であった。

しかし壮観だった。そしてしみじみ眺めた。こんなにもいろんな肌の色の人々がいて、
男も女もいて、いろんな世代の人がいて。いろんな国のいろんなところから来たのだろう。
それがたまたま一堂に会し、同じものを見ようとしている。なんともいえぬ感慨がこみ上げた。

そして始まった。密集する男たちの迫力。臓腑に響くような、野太い声。
見る者までもトランス状態に持ってゆく。

踊り手も登場。手の指の先、目の端々までをも使った表現力。緊張感が高まる。
1時間の演技であったが、迫力あり、緊張あり、笑いあり、時を忘れるほどだった。
最後は観衆も巻き込んでのダンス大会となった。一番最後の方に来て、一番前に座った女の子が、
踊り手として選ばれて、幸運にも楽しい体験を勝ち得、聴衆にも明るい笑いを振りまいていた。
そうかと思えば、最初の方に来ていたのに、あとからあとから人が来るのが気に入らぬ様子で、
「もう入れるな!」と叫んでいるオジサンもいた。彼はさんざん人に前を通られて、ダンスもよく
見えない様子だった。これって現世の縮図かもなあ。ラッキーラッキーで行っちゃう人もいるし、
まるでツキがなく、フラストレーションをためて生きる人もいる。神はあくまで不平等なのか。
あ、ついでながら。渋滞が気になって先に出たいのもあるんだろうけど、途中で出る人、多過ぎ。
なんでこんな素晴らしいものを前に、しかもこれだけ混んでるにも関わらず、出ようというのか。
意味がわからなかった。
長々恐縮だが、最後に、今後ウルワトゥでケチャッダンスを見ようかという方に、僭越ながら
アドバイス申し上げる。
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・とにかく早く行ってください。1時間前は覚悟されたし。日除け対策もお忘れなく。
・チケットを現場で日本人が買うのは、まず無理かも。ガイドさんに頼まれたし。
 バーゲン等の混乱に慣れてらっしゃるご婦人は、別かもしれないが(冗談)
・スタンドには縦にロープが張っている。それに区切られた細長い場所は、通路となる。
 そこに座っていた場合、早くから座っていても、あとで立ち退きを命じられる。
・上に述べたように、一番前の席は、後で前に人に座られるのと、途中で出ていく人が(←出るな)前を
 通っていくので、非常に不快に思われるかもしれない。中段少し下がベストと思われる。
・また、入口近くは、座りきれない人が前に立つのと、やはり途中で出ていく人が前を
 通ろうとするので、大混乱となる。奥の方に入った方がよい。
・帰りの渋滞は、これも旅行の一部、と諦める。まあ、イライラしても仕方ない。
*****

旅行中、何杯飲んだかわからない、ビンタンビール。
渋滞を潜り抜けた末に、ありついた。