『おくりびと』。

おくりびと [DVD]

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ヨメに前々から、これいいよ、特にあなたは絶対観た方がいい、と言われていた。
ノビノビになっていたが、前に録画してそのままだったのを先日観た次第である。
率直に、よかったと思う。何度となく泣いてしまった。毎度涙の大安売りで恐縮だが。
チェロ奏者の夢破れ帰郷した主人公は、なんとなく「納棺師」という職業に就くこととなる。
最初は腰が引けていた主人公だが、次第に経験を重ねこの職業を「プロとしての仕事」と
思うようになっていく。ただ他人の目は違う。周囲、特に家族と自己との葛藤に苦しむ。
その向こうにあった、出会いと別れとは…、とまあこんな話である。どういう話ですか。
人によって見るべきポイントは違うだろうが、いろんな夢破れてなんとなく縁あって
今の仕事をしている自分的には、やはり職業観を揺さぶられた、というのが一番。
一番最初に、山崎努演じる「師匠」の仕事のシーンを観たときもう、涙がドバー、だよ。
人に一般的にどう思われようが、それは関係なく。人への尊敬といたわりの心をもって
美しく仕事をこなしてゆく。それが大事だし、それを見る人は絶対見てくれる、と。
ヨメが自分に観ろ、と言ったポイントのひとつは、おそらくここにあるんではないか。
もうひとつは、この映画の根底に流れる死生観だろう。当たり前ながら忌み嫌われる死。
ただ、全ての人に、一回だけ訪れるその絶対的平等性。そしてその厳粛さ。崇高さ。
死がもたらす予定調和、というのもあるだろう(本作では、何度となく出てくる)。
死を手放しで賛美するわけではないけど、そう悪いものでもない、と少し思ってしまった。
それの一助となっている主人公も、おそらくそこに価値を見いだしたのではないか、と。
ともかく、職業、死、生、運命について考えさせられ、そののち、他人や、他の生き物にも
感謝して生きなな、と最後に思わせてくれる映画であると思う。
すぐ死ぬ死ぬー、言うてる場合じゃない。試験に落ちたぐらいがなんやっての(まだ言うか)
まずは先に言葉。そのあとネタバレ感想です。





<本日の言葉>
「棺桶の値段は左から5万、10万、30万。一番右は総ヒノキ。燃えたら灰になるところとかみんな一緒。
 違うのは素材だけ。皮肉なもんだと思わない?人生最後の買い物は他人が決めるんだよ」




















ヨメいわく「最後の父親との絡みはいらないかなー」ということだ。言われてみれば
ご都合主義にすぎる。ただ、調べると、これは映画化にあたって無理矢理替えられた結末で。
「原作者」がこの点に関して疑念を抱き、「もう原作ということにはしないで」となったと。
まあ自分はそれ観て号泣してたわけだが。制作側の思う壺だ。父子ネタにはどうしても弱い。
調べたついでに、いろいろレビューを観ていたら、「職業差別とその葛藤についての掘り下げが
浅い!」という意見が結構あった。重いテーマなはずなのに、ほんわかしすぎ、笑いとりすぎ、と。
浅いというか、深くできなかった、というのが実情だろう。この辺がぎりぎりの折衷点だったか。
自分的には、そいう重いテーマにほんわりアプローチする、というのは嫌いではないのだが。
反面、「こんな素晴らしい職業なのに。なんであんなに嫌われる場面を描くかわからない」という
意見も結構あって、難しいな…と重い気持ちになった。自分は、中学校が力を入れていたことで、
いっぱしの教育を受けたので、この場面の意図がわかってしまう。(なんとなく、ではあるが。)
小学校までは、そんなことは思いもよらなかったので、そのままであれば、おそらく後者の意見と
同様のことを、今なお書いたり言ったりしているかもしれない。すべての人が知らないとなれば、
このテーマも完全に消えるのだろうか。知ることは大事だろうが、知ることがさらにテーマを
逆に浮き彫りにしてはいないかと。今のところは、「だからこそ『正しく』知らねばならない」
というのが自分なりの結論だし、それこそ社会全体の「折衷点」なんだろうが。
方法論についての答えは出ない。
しかし結論は単純だ。そういう差別は、全くいわれはない。