ベトナム・ハノイ珍道中3「ゆかり」。

ひたひたと忍び寄る影。楽しいはずの旅行を覆いつつある闇。
それは…、台風であった。引っ張った割にはつまんないですか、失礼。
もともと、この時期のハノイは雨季で、しかも台風シーズンだとはわかっていた。
本当はベストシーズンに行きたかったが、そうもいかない身なのが哀しいところだ。
「もしも」の場合に備えて、少ない休暇にも関わらず、旅程に余裕を持たせていた。
旅行前はネットで台風チェックを欠かさず。数日前まで、南シナ海は概ね綺麗で、安心してた。
直前にフィリピン付近に台風が発生したが、ま大丈夫やろう、ベトナム来るとも限らんし、
台湾から中国へ抜けるやろう、とタカをくくっていた。が。

なんでそうなるのですか。
いやもう、笑うほどの直撃。「嵐を呼ぶ女」ヨメの本領発揮か。おいらはドラマー♪(古)
と言ったら可哀そうだが。て言ってしもてるがな。みなさん、内緒ね。今更やね。
三日目は「ハロン湾ツアー」を旅行前に申し込んでいたが、十中八九中止と覚悟していた。
幸いというかなんというか、この時は幸いと思ったが、台風は二日目の晩に通過した。
その影響かしらんけど、ホテルの部屋の空調から水が噴き出して来て、部屋をかわらねばならず、
かわった先が視界ゼロ・目の前がすぐ隣のビル、という部屋だったので、台風の様子はわからず。
しかしとにかく、すごい台風だったらしい。
三日目の朝、天候も落ち着いたようで、ツアーは決行。早朝(私にとっては)7時半に出発。
バスは何軒か他のホテルを廻り、何組かの他のお客さんを拾った。その道すがら、至る所で、

こんな風に木が倒れていた。この写真はまだましで、根こそぎ倒れている大木とかもあった。
ガイドさんの話では、倒れた木の下敷きになり、亡くなった方もいたそうだ。自然の猛威。
全てのお客さん(全て日本人)を乗せた後、バスはハノイを離れ、一路ハロン湾へ。
距離にして180km、4時間程度(休憩を含む)の道程である。ひえー、遠いな、と第一印象。
だが不思議と飽きなかった。ハノイとはまた違った、田舎町を中心とする車窓も楽しかったし。
大門(前の日記参照)の時も思ったが、バスの運転がもうなんか、ドライブというより、
シューティングゲーム感覚だったのもある。全く『水曜どうでしょう』のベトナム編さながら。
牛障害、岩障害、水たまり障害、滝のような雨障害、お坊さん障害などなど、様々な障害が
前面に立ち塞がる。それをものともせずステージをクリアしてゆく運転手の技術には舌を巻いた。
後述するが、舌を巻きそうでちぎれそうになるほどのこともあった。
しかし「滝のような雨」の時ふと思った。これ、ハロン湾は、クルーズは、大丈夫なのか?
案の定、途中でガイドさん(ベトナム人)がどっかと電話でやりとりした後、重大発表。
もしかしたら船が出ないかもしれない、でも、港までは行くだけ行ってみましょう、と。

で、行くだけ行った結果が、これである。よくわからんがおそらく運休、と書いてある?
クルーズは中止だ。雨はすっかり上がり、薄日さえ射しているのがなんとも恨めしい。
何でも、前日の台風で、船が港を離れ沖に避難してしまっているのが戻ってきていない、
ということだ。誠に残念だが、仕方ない。天候には勝てない。人間の矮小さを痛感。
船に乗って水上で食事、の予定だったが、陸上のレストランに(それは普通のレストランだ)
集められて食事。異国の地で、全く見知らぬ日本人同士がひとつのテーブルに集められる。
料理は海鮮系の大皿料理だったが、取り分け用の箸だかの配慮もなく、皆が気を遣いつつ、
おそるおそるジカバシで。皆が抱いてたであろう落胆の中、もそもそと食す。最悪の雰囲気。
申し遅れたが、バス内では一切、他のグループとの会話はなかった。アラフォー夫婦の我々、
若いOL風の二人連れ、年配女性の二人連れ、現地で活躍中なのであろうビジネスマン三人衆。
計9名だったのだが(ガイドさんはどっかに消えた)、どう考えても接点はない。
ビジネスマン達は、いかにもビジネスマン風に酌を交わしていたのが印象的だった。
そんな中、それを切り裂いたのが、年配女性の一人の行動だった。白ごはんが出てきた時、
女性はバッグからおもむろに「ゆかり」(しそ風味ふりかけ)を取り出し、ごはんにかけた。
それを全グループがツッコんだ。いいですねー、おいしそうですねー、と会話が生まれた。
いります?と女性はビジネスマンの一人に薦める。彼はじゃあ、遠慮なく、と応じた。
彼が本当に「ゆかり」が欲しかったのかは謎だが、さすが日本のビジネスマンである。
空気をわかってらっしゃる、と感心しきりであった。それから一気に雰囲気が和んだ。
皆を結びつけたのが「ゆかり」、というのが言葉の妙というか、面白かった。
せっかくの海外なのに、なんで純日本的なもの食べるの?と思う向きもあるだろうけど、
それはおいといて、何だか気持ちがほっこりした瞬間だった。

おまけ映像(グロくてすみません)。レストランの脇にて。真ん中のやつは、どう見ても、
釣りの餌にしか見えないんだが。どうやって食うのか? これは日本的からは程遠い。

その後、ハロン湾の一番手前の島まで橋を渡って行き、ほんの入り口の入り口だけを見る。
ただ、クルーズしたところで、たかが数時間のクルーズでは、ほんの味見程度だったらしい。
「スプーン一杯」の味見が、「ちょっとひと舐め」に変わっただけだ、とサワーグレイプ。
今度は是非、ハロン湾に腰据えて泊まってがっつりと堪能するぞ!と、決意を新たに。

帰りはさすがに疲れてウトウトしてしまうが、時々けたたましいクラクションで目が覚める。
起きると眼前にはこんな状態が。ベトナム人の追い越し技術と度胸は世界一だと確信する。
結局、往復で八時間ほどかけて、メシを食いに行ったようなものだが、ま、それもまた良。
車窓は楽しかったし、面白い出来事もあった。メインの目的は果たせずとも、
それでも楽しいと思えるかどうかは、自分次第であるなあ。だから、今回はこれでよかった。
ただ、素朴に思うのは、港に電話一本かければ、船が欠航なのはわかってたのではないか、
それを踏まえたうえで、参加者である我々にツアー決行の可否について相談してほしかった、
ということである。まあもう、それは言わへんけど。て言うてもうたがな(またか)
帰った後、どうも「小腹がすいた」感じがぬぐえず(やっぱりよくない思ってたのがバレる)、
この日は土曜の晩ということで、ナイトマーケットに繰り出す。ホアンキエム湖の北岸から、
ドンスアン市場までが長きにわたり、歩行者天国に。出店と人ごみは、ほぼお祭り並みである。
活気と人いきれを存分に吸い込み、「ベトナム最後の夜」を楽しむ。

出店で見つけた衝撃のキャラ「のびエモン」?「波平エモン」?
ハノイは「ドラえもん」が流行っているようで、うら若きギャル(死語)が、ファッショナブルに
ドラえもんTシャツ」を着こなしているのを目にした。権利はどうなってるのか?と少し思う。

街角に腰をおろし語らう人々。ここは「ゆかり」的なものが溢れている。