『海洋天堂』。

海洋天堂 [DVD]

海洋天堂 [DVD]

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我が職場は、3月が年度替わり。新年度から自分のシフトが変わって。
日・月休みが、日・火休みとなった。連休でなくなったのは、ちょい凹みであるが、
野球オタクとしては、月曜休みだと野球が無いので、非常に痛かったこともあるので。
半分寂しく、半分嬉しいシフトチェンジではある。今年は野球観まくったる所存。
昨日初めての火休みは、野球(まだオープン戦)ではなく映画デーとして過ごした。
毎度お世話になっている、近所の渋い映画館で、話題の佳作をやっていたので行ってきた。
アクションスターでならしたジェット・リーが、アクション抜きの好演。新境地を展開している。
ほんとうに「くたびれた中年男」そのものであり、最初彼であると全くわからなかったほどだ。
そのジェット・リーが、シナリオを読んだ瞬間に感涙し、ノーギャラでの出演を申し出たのが本作。
中国映画界では大絶賛の渦を巻き起こしたそうだが、残念ながら日本での配給はされなかった。
諸事情はあるのだろうが、本作の扱っている重い重いテーマがその一因ではないかとも邪推する。
ただ、噂を聞きつけた日本の映画ファンたっての希望で、日本でも諸所で細々と上映されはじめ、
静かなブームとなっている。その希望に違わぬ、秀作中の秀作であると、少なくとも自分は思う。
父と、息子の大福(ターフー)との、愛溢れる、時には痛々しい関係が中心テーマである。
字幕で幾度となく「大福」と見たので、帰りに大福餅が食いたくて仕方なくなった。て、おいこら。
何が「普通」なのか、という定義は難しいのだけど、この二人の関係はまず「普通」とはいわれまい。
その「普通でなさ」を「普通に」受け入れようとする、また受け入れる父と周囲。それが心を打つ。
またそれに、淡い淡い恋(?)が爽やかな香りを加えている。ヒロインの透明感ある美が印象的だ。
個人的には(そもそも全て個人的)、そのヒロイン、友人によく似ていると思った(ヨメ不同意)。
涼やかな目と、伸びやかな生命感が、その友人と同じで、素晴らしかった。とおだてておく(おい)。
その関係が普通であろうと、普通でなかろうと、「親子関係」を持っていない人間はいない。
全ての人間に、親とは、子とは、親子とは。愛とは。そして命とは。根源的命題は突きつけられている。
それをやさしく、さわやかに、反面、重々しく、そして哀しく、教えてくれる本作である。
ハンカチを三枚くらい用意した方がいいかもしれない。自分は一枚では足りなかった。
でも本当にそいう状況に直面されている方が観ると、また違うのかもしれない。その辺はわからない。
しかし少なくとも、わかろうとする入口には立つ助けとは、なるかもしれない。
以上が表向き(?)の感想である。以下は毎度のネタバレ感想。






とにかく、顔がずるずるになるくらい、ずーっと泣いてしまった。一人で観ていてよかった。
中でも、泣いた瞬間ベストファイブ(順不同)は以下の通りである。
・息子に父が噛まれたとこ。
・父が「海亀」を手作りしてるとこ。
・息子を預けて、一人帰ってきた父が寝ているとこ。
・最後の方、父がいろんなことを笑顔で息子に教えているとこ。
・電話がかかってきたとこ。
「自分がいなくなったら子供は大丈夫か」全ての親が思い悩むことであると思う。
ましてや子供が障害を持っていたりしたら、なおさらなことだ。と、陳腐なことしか言えない自分。
主人公の苦悩は、自分が想像もできないほどに違いない。そこを敢えて、生意気言ってしまうが。
一度は死を選んだ主人公が、息子と向き合い、必死となり、最後には笑顔で一緒に時を過ごせた。
幸せ、の一言で片付けるのは憚られるが、それでも本当に父は幸せだったのではないだろうか、と思う。
ただ、父が幸せであるためには、あの周りの暖かい人々が必要であったのは、確実である。
地域と職場、家庭、社会が一体となって、個人の幸せのために存在していることの素晴らしさ。
そして今、決して日本が、世界が、そうはなっていないことへの疑問。それをずしりと腹に食らった。
今「大きな声」が日本の、世界のルールを決め、人間をどんどん窮屈なところへ押し込めて行く。
「自己責任」「競争力」の題目の下、「声が出せない人」はますます無視されて行く。
そいう現状を考えると暗澹とするが、急成長の中国にして、この種の問題意識を持った人も、やはりいる。
それが救いではあると思う。同時に、この映画の配給断ってる時点で、あかんぞ日本、と思ってしまう。
まそいう「大きい」ことも大事だが、小さくとも貴重な、親子愛はもっと大事。
ひとりの親の子として、親の思いを痛感できたのはよかった。また、ひとりの子の親…になるかはわからんが、
もしなるとすれば、なる前にこの映画を見れて、やはりよかったと思う。この愛を子供にぶつけられるか。
いや、ぶつけなあかんと思う。いや、ごめん、教育に携わっている者としては、生徒こそ自分の子供であるか。
噛まれることもあろう。言っても言ってもわかってくれないこともあろう。でも、教え続けることの意味。
それも教えられた気がする。同じことを何度も言ったことがあるような気がするが、また言ってしまう。
この映画に出会って、本当に良かった。




<本日の言葉>
「この映画を、平凡にして偉大な全ての父と母に捧ぐ」