薩摩珍道中3「陽はまた昇る」。

車は一路、錦江湾を道連れに、進む。目指すは指宿。
途中、喜入では巨大な石油基地を発見。おおーあれがかーと妙な感動!!
中学校の地理で「喜入=石油」と暗記させられたのが、思わぬ形で役立つ。
詰め込み学習も、たまにはいい風に作用するものだ。
指宿に近づくと側溝?らしきとこから、もくもく湯気が立っており、また感動。
その夜は、日本人誰もが知っているだろうが実際やった人は少ないと思われる、
あの「砂蒸し」を体験。受付をすませると「専用浴衣」に着替えるよう指示され。
言うまでもないが(言わんでええやろ)、浴衣の下はすっぽんぽんである。
寒さに震えつつ、外の砂浜沿いを移動し、テント内の砂蒸し場へ。いよいよだ。
もっとも、夏期は野天で埋められるらしい。次はその時に来てみたいねえ。
テント内では、老若男女が混じって並べられ、魚河岸の鮪のように寝かされる。
自分ら夫婦も、並んでそれに入る。そして順次、スコップで埋められてゆく。
思った以上に重くて熱い。が、オモアツ気持ちいい。やみつきになりそうだ。
全身の血液が脈動し、手足の指の先々までがあったまっていく。
じわじわと発汗。全身の毒素が出て行くようだ。性格上の毒も減ればよいが(笑)。
十分〜十五分ほど感覚を楽しんだ後、各自、自力で脱出。その後はテントを出て。
浜辺にある「砂落とし温泉」に浴衣ごと入る。これは一つしかなく、男女混浴。
しかしまあなんですな、浴衣で入浴するのは妙な感覚だった。うっかり海女状態、だ。
めっさ密着して、体のラインというか、細部までが如実に出るような気がするんだが。
たまたまそんときは他の人が入ってへなんだので、事なきを得たけどこれ。
もし見知らぬ人が(しかも異性が)入ってたら微妙ちゃうんか。と思う自分は変態か。
*****
次の日は、この旅行の目玉、開聞岳登山(強引に話題転換)。
鉄道オタクの自分は、子供の頃よく鉄道関係の写真集を見ており。その中の一つにあった、
「日本最南端の駅」(当時)西大山駅の写真の背後に秀麗に聳えるこの山が気に入ったもの。
その駅自体は、沖縄に「ゆいレール」が出来てしまったので、自分の中では価値を失ったが。
山に対する憧れは変わらなかった。今回その昔からの願いが叶ったのは、よかった。
初日の出狙いの夜間登山も考えたが、天気予報が悪かったので(朝が弱いから、とも言う)、
晦日の昼間の山行にした。この日は天気も良く、変更は良い方に出た形だ。

「薩摩富士」と呼ばれる美しい顔を拝す。登る前からもう感動、である。
二合目の「山麓ふれあい公園」までは車で。そこから登山開始。コースは円錐形の山を
ぐるぐると渦巻状に上がるもの。ということは、体感的には(?)真っすぐ上がるのみ。
最初はうっそうとした林の中を通る。南国特有の植生が目に楽しく。生命感も心地よい。

五合目あたりで一瞬視界が開ける。遠くに噴煙を上げる桜島を望む。

七合目から八合目にかけて、急に足場が悪くなる。もし夜来てたらやばかったかもね。
そこから縄場や梯子など難所もあったが、確実に歩を進める。眼下の青い海が爽快だ。
また、耳を洗う潮騒が、急坂に喘ぎ折れそうな心を励ます。そしてついに。

登頂。やったぜー! 麓の池田湖も祝福。イッシーも祝福か?
湯を沸かして、おにぎり&あったかーいスープ春雨(インスタントだけど)の昼食。
さらに食後のホットチョコレートが嬉しかった。糖分が指先まで浸み渡る。
これで我々は、日本百名山のうち三つ登ったことになる(あとは大山と伊吹山)。
て、低いのばっかりなんやけどね(笑)。いやいや、標高だけが山ではないのだよ。
百登る日が、いつか来るんかねえ。
*****
行きはよいよい、帰りは怖い。下りは登りとは別の意味でしんどかった。
溶岩質で足元が非常にスリッピーで。何度も何度も何度も転んでしまった。
日頃何もないところで転ぶ自分を馬鹿にするヨメも、少なからず転んでいた。
幸い大きな怪我もなく下山。しかし写真等を撮る余裕は全くなく。
残念だったので、最後に、山の全容を撮れる場所はないかと、偶然訪れたのが。
薩摩半島の突端、長崎の鼻である。そこからの眺めは、やはり素晴らしかった。

あれを登ったんだー、としみじみ噛みしめる。何か自分のことではないようだ。
その後岬へ。左手には大隅半島が伸び、おそらく佐多岬と思われるものも見える。
そして遥か前方には、へらべったい島と、こんもり高く煙をあげる島がうっすらある。

おそらく種子島屋久島だろう。屋久島、いつの日か是非、訪れたい。夢は膨らむ。
*****
思えばプロジェクトFが年内までにうまく行っとったら、山どころではなかったかも。
実は、この素晴らしい経験を我々がするのを、わざわざ待ってくれとったんかな、と。
しかしま、うまく行ってもいかんでも、えやないか。道がどうあれ、全ての道は正しい。
そういう風に話していた。そんな二人の横顔を2011年最後の夕日が照らす。
その時、信じられない出来事が。

夕日まで一直線に伸びる、黄金の道。思わぬ天からのプレゼントに、ぐっときた。
思わずこの道を辿って西方浄土まで旅立ってしまいそうになったが。いやちゃうやろ。
この道がどこに続くのかはわからんけど。どこかには続く。
できることは信じて歩むことだけだ。新年もがんばろ、と。
*****
帰ってから、「屋久島が噴火した」なんて、あんまり聞かんなあと思って。地図で検証した。
真相は、自分が屋久島と思って感動したのは、「硫黄島」という別の島で間違いなさそうだ。
現実は時として、残酷である。夢は夢でおいといた方が、よかったかねえ(苦笑)。