みちのく珍道中2「自然と人間」。


奥入瀬の素晴らしさは、その緑にある。

すみません、何滝だかわかりませんが。
こういうのが沢山あります。

奥入瀬十和田湖の静かな水が育んだもの。

秋田名物きりたんぽ。ここは秋田と青森のトワイライトゾーン
関係ないが。たんぽ、です。「ん」ではありません、とその昔
学校の美術の先生が言っていたのを思い出す。
言ったのは先生であり、私には何の責任もないので念のため。
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8月9日。
この日は、この旅のメイン。奥入瀬渓流沿いを踏破する予定であった。
まずは前フリとして、前夜の出来事について書かねばならない。
この奥入瀬渓流ウォークを敢行するにあたって、問題が二つ持ち上がった。
ひとつは椎名誠ではないが、昼飯の問題。もうひとつはアクセスの問題、であった。
14km歩くとなると、あちこち見ながら4、5時間ほどかかろう。いきおい昼は途中となる。
また、奥入瀬は「下から上」に歩いた方が絶対いい、と聞いたので、話はややこしくなった。
我々は所謂「上」の十和田湖畔に宿をとっていたので、車は宿に残して出かけてしまい、
バスか何かで「下」まで行って、そこから歩いて登っていくのが合理的と判断した。
そこで、どこか弁当を購入できる場所と、「下」までのバス時間を問い合わせに、
ホテルのフロントに行ったところ… そこのフロントクラークが非常に微妙だった。
「歩かれるんですか、歩くと遠くて大変ですよ…」と、取り合ってくれない。
いやあのね、私たちは「歩きに」来たんですけど。遠くて大変上等、なのだよ。あまつさえ、
「それより車で行かれて、こことこことだけ見て、美味しいとこどりされたらいいですよ…」
と来たもんだ。これには半ばキレかけた。それも一つの考えかもしれんが、自分には合わない。
およそサービスに携わる者は、「いろんなニーズがあり、いろんな価値観を持った人がいる」
という認識に立って仕事をせねばならんのではないだろうか。自分の枠内に留まってたらいかん。
このホテルは、第一希望と第二希望のとこが満室で、仕方無しに選択したところだった。
まあそこそこ老舗で、そこそこ大きなホテルだったのだが。実際泊まった印象としては、
十和田湖に来たいからここで」という人が大半で、「このホテルに泊まりたいから」て人は
あまりおらんのではないかな。金や規模の問題やない。哲学の問題だ。人間性の問題だ。
ここでは自分が大きなベルトコンベアに乗せられてるような、そういう印象を抱いた。
武士の情けでそのホテルの名前は、ここでは書かないでいるが。まああれだ、他山の石としたい。
まあ、次に泊まる宿がよく見えるよ。順番が逆でなくてよかったんじゃないか、と思い直す。
失礼、前置きが過ぎた。で、9日の朝である。
仕方がないので、ホテルのお土産屋で腹の足しになりそうなお菓子を大量購入してバス停へ。
ところが、バス停の売店で偶然「おにぎり」を販売しているのを発見。ほらほら、あるじゃん。
自分らと同じことを考えている人がやはりいる。少し嬉しくなる。すかさずゲットし準備万端。
でバスで渓流下の焼山まで下りてゆく。道中、車内放送の観光案内が非常に役に立つ。
そして歩行開始。率直な印象としては、素晴らしいところは素晴らしい、残念なとこは残念、
という感じか。渓流沿いの遊歩道は、車道についたりはなれたりしながら続いてゆく。
車道から離れた静かなところは、本当に素晴らしかった。渓流と木々と自分との三者会談だ。
だんだん排ガス臭くなり、人が多くなってきたなあ、と思うと滝だの急流だのの「名所」がある。
いわゆる「美味しいとこ」である。まあ、それはそれで綺麗やねんけど、なんなんだろうなあ。
うまく言えへんけど、滝があるいうて、滝見に行って、そこに美しい滝があるのは当たり前やろ。
ずーっと自分と向き合って歩いて歩いて、ふわあっと視界が開けたところに滝がある!ちうのが
感動を呼ぶんではないか。ホームラン映像の繋ぎ合わせと、ナマの野球の試合との違い、いうか。
野球と言えば、ずーーと静かに共に歩いてきた渓流が、名所に来ると人大杉になるこの様子。
ケーブルテレビ入って普段は上質の中継を楽しんできたのに、日本シリーズ等の大試合になると、
キー局の影響力の元、放送の質がめっさ下って意気消沈する。あの感覚と似てるなあ(細かいぞ)
ともかく奥入瀬に対する希望としては、もそっと車と人との「棲み分け」をきっちりしてほしい、ということ。
もっとも、自分らもその道路の恩恵に少しはあずかったわけだから、あまり言えんのかもしれんが。
でも排ガスを撒き散らして、自然を謳歌しに行くって、やっぱあ、おかしい行為ではないだろか。
奥入瀬の美しい渓流美を必死にカメラにおさめようとしてか、でかいカメラで三脚とかおっ立てて。
で、手前の草木とかコケとか踏みにじってたカメラマンがおったわ。これもおかしいやろ。
自然と人間の最適関係。言い古されたテーマではあるが。重要かつ永遠のテーマなのは確実だ。
面白いのは、自然自然言うてきたが、奥入瀬の「自然」は実は人が作り出したもの、だとか。
奥入瀬川の水は十和田湖から流れるのだが、その入り口のところに水門があり、渓谷を流れる
水の水位は常に一定に保たれている。そのため、奥入瀬川は長らく氾濫したことがない、と。
故に、岸から渓流にせり出す木々も、渓流内の森も、渓流内の石のコケもそのまま保たれる。
独特な渓流美はそうして作られた。いわば、人と自然との奇跡の調和、と言ってもよい。
その調和を保つも壊すも、人間である… 非常にためになったウォークであった。
人に奥入瀬について聞かれたら、自分は絶対こう薦めたい。
「美味しいとこどりはせず、是非全部歩いてください」
もっとも、いろんなニーズと価値観があることは理解してのことだ。
全部行けば、美味しいとこも行ける。
美味しいとこどりでは、全部は行かれへんやないですか。
ごめん、何言うてるかわかんなくなってきた。ではこのへんで、また。