米国野球、ふたつの戦い。

大リーグが開幕した。早くも大リーグモードに今期は移行せねばならず…
というのは冗談であるが(笑)。イチロー胃潰瘍のニュースで幕を開けた
米国野球界は、日本のそれとくらべ、どことなく牧歌的な気がする。
十月に盛り上がるようにとことん計算しつくされた大リーグは、春先から
夏にかけては、見た目ジャブの応酬というか、いささかマッタリ展開する気がする。
たまにKYに突っ走るチームも出てくるが、そういったチームには後で容赦ない
お返しが待っている。おお、なんか日本野球で、似たような思い出が…
しかし、そういったマッタリムードはやはり見かけだけで、静かに浮かぶ白鳥が
実は水面下で激しく足を動かしているように。メジャーかマイナーか、という
瀬戸際では、チームの戦いと同時に、選手それぞれが、それぞれに闘っている。
若い頃は、そいうのに目がいかなかったが、最近はどうも目をひいてしまう。
注目している二人がいる。ボルティモア・オリオールズ上原浩治
シカゴ・カブス傘下、3Aアイオワカブス田口壮である。
日本人以外の名をあげてもよいのだが、食いつきを考え(何の)。
上原浩治。巨人のエース。我々虎党にとっては、独特の響きを持つ名であった。
雑草魂て、えげつないボール投げてて、お前の何処が雑草やねん。
上原の一年目、カミソリのようなスライダーに、我が軍ダメ外国人のバットが
クルクル回るたびにそう思ったものである。また「敬遠涙事件」には、
お前ひとりで野球やってるつもりか、いきんなや、と横ギレしたものである。
しかしま、現金なもので、巨人というカタガキが外れた代表戦においては、
いやあ、味方にすると惚れ惚れするなあ、と感嘆したものである。
「百球病」が見え隠れし始めた晩年(?)、或いは抑えでの炎上を見るにつけ、
敵としてはほくそ笑んでいたが、反面、一抹の寂しさも感じたものである。
「巨人のエース」から解き放たれた今わかった。自分は上原が好きだったのだ。
いやはや。所属で人を判断してはいけないのではあるが。人間できてねえや。
オリオールズという、優勝に見放された弱小球団に移った今、上原浩治
雑草としての真の闘いが始まった。初登板時の少年のような顔が印象的だった。
ただ戦いは厳しい。もともと調整がうまいほうではない。初経験の中四日登板。
懸念されるスタミナ。不安要素は尽きない。二戦目は滅多打ちに合った。
ここからどう修正してゆくか。本人はクレメンスを尊敬していると言うが、
求められているものはそういうパワー投球ではなく、マダックスのような
「27球で試合を終わらす」投球ではないか。うまくモデルチェンジが成るか。
上原ならできる気がするが。できなければ地獄のマイナー生活が待っている。
その地獄のマイナーで今闘っているのが、田口壮である。先日書いたが、再び。
周知のようにメジャーとマイナーの差を、ネタかいな、いうくらいにつけてるのが
米国球界である。チャーター機で移動―バスが滑走路まで来る―高級ホテル、という
待遇のメジャーに対し、朝四時おき―高速バスで移動―エサ?という食事、という
マイナー。井口のように日本に帰って来れば、そこそこの居場所はあったはずである。
それを敢えて茨の道を選んだ。そしてその道は、歩むのを止めた瞬間終わる。
露骨に「最後の戦い」を演出しようとするマスコミ。それに対する反発。
ワールドシリーズ出場まで果たしたプライド。そして「あのタグチか…」という視線。
半分くらいの年の青年が「テレビで見てました、あの守備は素晴らしかったですね」と
握手を求めてくる。その青年と同じバスに乗る。或いはその青年に出番を奪われる可能性。
「適当に選んで」と背番号を選ばせられる。その背番号が他人とダブっていたり…
練習するために本拠チームが勝っていても九回裏をやる。捕手が足りず野手が捕手にまわったり。
「草野球?」という疑問。それでも闘わなければならないのは、何故なのか。
新聞にもテレビにもどこにも紹介されていないが、今はいい時代で、ウェブで彼の生の声を
知ることが出来る。映像はどこにもないが、目に浮かぶ。のどかな田園風景が広がる中で、
ひとり最後の戦いを繰り広げている男がいる。そのコントラストが、あまりに痛切である。
(あ、最後って言ったらいかんのだけれど。しかし誰もが知る。おそらく…)
なんかうまくは言えんのだけど。とてつもない深さを感じるのだ。
人生なんじゃよ… と言ってしまったら、前書いた酔っ払った上司、になってしまうが。
とにかく、日本で鬱積している野球欲を、こんなところに転化させてしまってるが。
まとにかく、上原も田口も、そして私も、救いようのない野球馬鹿である、ということで。
同列に並べたら御二人に失礼ではあるが(笑)
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<本日の言葉>
「野球が楽しくなくなったら、止めたほうがましですよ。」
                      上原浩治


上原と田口は、野球が楽しくなくなったら、野球を止める、でいいんだろうけど。
私は何を止めたらいいんでしょうか。一体。ねえ…(誰に聞く)