WBCその7「エースの品格」。

勝ちました。まずはめでたいかぎり。
早起きして観た甲斐があったというものです。
ひとりでまんじりともせず見ていると、なんとも、じっとしていられず。
気がつけば台所に立ち、米を研ぎ始め。豪華朝食を作ってしまっていた。
ビール飲みながらの観戦もいいけど、ご飯に味噌汁で観戦もオツなものだ。
それが自チームの勝利試合ならば、なおさらである。しかし予想だにしない展開だった。
前日まで、妖怪かなんかの犯人かいうくらい、恐怖をもって名を連呼されていたチャプマン。
確かに球は速かったが、左で球が速いだけならば、マイク仲田もそうだった(例に挙げて悪いが)
やはり投手は、コントロールである。また、彼はエースというにはあまりに若かった。
微妙な判定や、日本の執拗な足攻めにカリカリ。捕手(イケメソ)に叱られて俯く表情は、
少年のそれでしかなかった。そこへ行くと松坂は、さすが、という感じであった。
圧巻だったのはやはり、イチローに城島に、名だたる大リーガーがポロリポロリとやった
回のピッチングである。味方に足を引っ張れられた時、気持ちが切れる投手が多い中、
そういう時こそ、ますます冴えた投球をする、というのが松坂の凄さか。これぞエースである。
自分と比べるのもおこがましいが、見習いたいものである。
しかし毎回苦言を呈して恐縮だが、やはり、この一勝はこの一勝として喜ぶのはよいが、
次に気持ちを切り替えていかねば。この日のキューバを本当の姿と思ってはいけない。
キューバは途中から早々と主力を下げ、投手も出せるものは全て出し、調整に切り替えていた感がある。
次勝負がかかる展開であたることは予想したくないが、もしそうなった時、まるで今日とは別のチーム
が来るのでは、と恐れるものである。つうか、次の韓国に勝てば、問題はないわけなのだが。
しかし、また韓国かよ… たいがい、韓国もういいよ、と食傷気味なのではあるが。
なんかこうなってくると、冗談で言っていた「韓国と5試合」が現実味を帯びてきた気がするぞ。
韓国―メキシコ戦を観るにつけ、相変わらず気持ちの入ったいい野球をしているので、難敵だ。
そして日本にはまた、歯を剥きだしてくるだろう。返り討ちにする甲斐があるというものではないか。
韓国ファンの熱さは言うをまたないが、ソンブレロミル・マスカラスのマスクで応援するメキシコファン
も観ていて楽しかった。日本―キューバも含め、この日のサンディエゴは盛り上がっていた気がする。
それにひきかえ、マイアミの米国―オランダ戦はお寒い限りであった。試合内容はともかく、
ガラガラのスタンドには寂寥感があった。米国人て愛国心を前面に出しているような印象なのだが。
いや本来は愛国心が薄いので、愛国心愛国心と唱え続けなければならない、ということなのだろうか。
いや愛国心以前に、WBCとアメリカ代表に対する認知の問題なのだろうか。どうなんやろ。
日本も「日本人」という概念ができたのは明治維新以降で、それ以前は小国の集合体にすぎなかったとか。
それと同じく、むしろ「アメリカ」という概念は実は弱く、ローカルコミュニティの集合にすぎないのだろか。
だからこそ考え無しにグローバルという言葉を口にしてしまうのか、と言ってしまうとまた毒になっちまうが。
ともかく、開催国が盛り上がってくれないと寂しい。東アジアが強いのは嬉しいのではあるが、
半面、勝てば勝つほど、世界のほかの地域がヒイていく気がするのは、なんとも複雑である。
ま、そんな気持ちもないではないが、今は応援に集中しよう、かと。
しかし早朝から三本立てはきつかった。いくら休日だからといって。この生活は自分でも反省である。
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<本日の言葉>
大和魂!と叫んで日本人が肺病やみの様な咳をした…
 大和魂!と新聞屋が云う。大和魂!と掏摸が云う。大和魂が一躍して海を渡った。
 英国で大和魂の演説をする。独逸で大和魂の芝居をする…
 東郷大将が大和魂を有(も)っている。肴屋の銀さんも大和魂を有っている。
 詐欺師、山師、人殺しも大和魂を有っている…
 大和魂はどんなものかと聞いたら、大和魂さと答えて行き過ぎた。五六間行ってからエヘンと云う声が聞こえた…
 三角なものが大和魂か、四角なものが大和魂か。大和魂は名前の示す如く魂である。
 魂であるから常にふらふらしている…
 誰も口にせぬものはないが、誰も見たものはない。誰も聞いた事はあるが、誰も遇(あ)った者がない。
 大和魂はそれ天狗の類か…」

                  夏目 漱石 『吾輩は猫である』より