飛騨珍道中3「冬はつとめて」/「天の鉄槌」。






(1)絵葉書その1。
(2)絵葉書その2。
(3)絵葉書その3。
(4)絵葉書その4。
(5)地元のアイドル。
白川郷
かつては、冬には雪で全てが閉ざされる秘境中の秘境であった。
そしてごく最近まで、国道の峠道が唯一の生命線であり、「山都」高山まで
出て行くのも一苦労であったそうな。それがである。東海北陸自動車道の全通により、
高山からは、高速バスで僅か一時間足らず。昔の住民の苦労を思えば、夢のようなのだろう。
そして秘境は、今や「世界遺産」、今や世界が着目する「観光地」となった。
高山の白川郷行きバス乗り場は、人、人、人であった。アジア人、白人、いろんな顔がある。
純日本風な土地柄と、この国際色豊かな集団は、妙なコントラストを醸しだしていた。
この急激な変化に、地元の方も頑張って対応しようとしているのだろう。それはわかるが。
「これは券売機ではだめだから、こっちで買って。あ、これは近距離だから券売機で」とか。
「このバスは予約できるけど、これは予約必要ないです」てのが「全部予約できない」と間違って伝わり
もめてたり。前の方で何回も何回も同じ会話が繰り広げられてた。「何べん同じ事言わすねん」
という係りの人の苦労もわかるのだが。注意事項を各国語で掲示するなりした方が効率的なんじゃないか。
地元の人からしたら、周りが勝手に変わっただけで、なんで自分らが変わらないかんねん、と言いたいだろ。
それはわかるし、いや事実、頑張って対応してらっしゃる方もいっぱいいるのだろうが。
それは自分らの仕事でもそうなんかもしれない。「最近の親は…、生徒は…」と言ってしまうのは簡単だけど。
言いっぱなしでイラついてるだけになってはいないか、と。しかしま、変化をいい風にとってもいいわけだ。
受け売りになってしまうが、「CHANGE」と「CHANCE」は一字違いなわけである。
正直、この頃から、私のフラストレーションは高まっていた。私が見に来たのはこういうんだったのか。
到着後、思わず「人大杉やろう」と声を発してしまった。すかさず「あなたもその一人なわけよ」とヨメ叱責。
それもそうだ、と猛省。天に唾する発言であった。しかし、複雑である。なんやろう。たとえは悪いが、
弱小やけどひたむきに頑張っているのが魅力だった野球チーム(何処だ)が、強くなって人気が出て。
それでチケットが取れなくなって…という気持ち。それと似てるだろうか。「俺が好きやったのはこんなじゃない」
なら好きなんを止めたらええやん。でもできへん。好き… みたいな。
強くなったチームには、もとい、ブームとなった観光地には、やはりいろんな人が集まるわけで。
もうもうと飛沫をあげて側を通過する車に。「歩き煙草厳禁」とあるのに煙草を吸いながら歩くオサーンに。
「ゴミは持ち帰りましょう」という掲示のそばに置いてある空き缶に。ほんと同じ観光客でもキレそうになるので、
地元の人のキレっぷりはいかばかりか、と思ってしまう。正直、このまま帰ったろうかとも思ったが。
地元の酒屋の「日本酒立ち飲みコーナー」と、その横に繋がれていた「看板娘」(息子?未確認)に、和らげられ。
なんとか思いとどまる。それがよかった。終バスが出て真っ暗になった町にしんしんと雪が降る様子。
そして次の朝、始発バスが来るまでの、全ての音が吸収されてたような静けさ。その素晴らしさは忘れられない。
「冬はつとめて 雪の降りたるはいふべきにもあらず」とは、よう言うたものだ。
これは「冬は勤めがつらい、雪が降ってる時は言うまでもなくつらい」という意味だ。(このネタ前使ったな)
不思議なもので、その素晴らしさを体験したあとは、前日あれほど嫌だった人人人も、また違ったように見えた。
これが、全てを乗り越えた人類愛であるのか、単なる優越感であるのかは、わからない。
後者であってはならぬのであろうが、そこはムーランとて人の子である。
ともかく違った気分で、また「日本酒立ち飲み」を訪れたのであった。(都合三回行った←行き過ぎやろ)
その後、「合掌作り」の内部見学。その古風な中にも合理的で、しかも頑健な構造に感動する。
窓から下を見る景色には、不思議な既視感があった。日本人の深層心理に刷り込まれているということか。
はたまた、この山の裏にルーツがあるとかいう、私の前世記憶のなせる業か。それもわからないが。
素晴らしき日本美。しかしいいことばかりではなかったはずである。資料館の示す歴史は、
大火による悲劇。離村、廃村のつらい歴史。また全てを拒む冬の厳しさ。そういうものを示していた。
いろりの火にあたりながら、いろいろ考えた。そういうのもあっての、世界遺産なのだろうなあ、と。
そしてこのあったかさ。今でこれほどあったかいのだから昔の人はどれほどあったかかったのだろう。
わかってるぜ、俺。さすがは違いのわかる男ムーラン。さすがは、「パーツ的にはかっこいい」と言われた男。
さすがは、「ある一定の角度から見るとかっこいい」と言われた男。ふふふ… 皆見たろこの凛々しい横顔。
あばよ、白川郷。俺はお前を忘れない。と、かっこよく立ち去ろうとしたその時。
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ガンッ!!!!
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目から出た火が、いろりの火と重なった。
阿呆な酔っ払いへの、まさに天の鉄槌であったろう。
なんてのだろう、上にあった「いろりからの煙をよける板」に
しこたま頭をぶつけてしまった。すっかりスモークされたボンレスハム
たんこぶまでつくっちまって。とんだ国際的恥さらしではあるよ。
痛む頭をさすりながら、また高山への帰り道中。
旅は続くのであった。打撃とアルコールで頭がやられてしまわない限りね。
あ、もともとやられてますか、て話。