さらば森島。

http://www.cerezo.co.jp/popup/20081206.html
ついにこの時が訪れてしまった。本当に本当に、寂しい限りである。
モリシこと、セレッソ大阪森島寛晃。知る人ぞ知る名サッカー選手が明日引退する。
身長168センチの小兵ながら、豊富な運動量と、狼の如き鋭いシャドープレーで
一時代を築いた。ただその能力もそうだが、その飾らない誠実な人柄に
私同様ひきつけられていた人も多かろう。森島寛晃、あなたは充分闘った。
しかし惜しむらくは、一度くらいあなたに優勝の美酒を浴びてもらいたかった。
チャンスはいくらでもあったのだが… それだけに返す返すも惜しまれる。
*****
私が森島を始めて知ったのは、まだセレッソ大阪がJFL(当時のJリーグの下部)
だった時の、1994年である。晩秋のJ昇格をかけた大一番、対藤枝ブルックス戦。
台風かなんかで、延期になった試合が図らずも大試合となった。しかも会場選びに
苦労したのか、用意されたのは尼崎記念公園競技場という狭い小さい舞台。
平日の昼間に大学をサボって(そもそもサボるのがデフォだったが)観に行った。
それが私の初のサッカー観戦だった。が全くビギナーズラックというか、すっかり引き込まれた。
舞台が小さいゆえ、ヘディングの音、DFとFWがぶつかる音、シュートの音が聞こえる。
選手の吐く息の水蒸気がわかる。観客とフィールドの一体感。ガチ勝負の最高潮の緊張。
セレサポ万来の手拍子。それに対抗する藤枝の「一人サポーター」。今でも目に浮かぶ。
それから何度もサッカーを観ているが、これ以上の試合はそれから今までにないなあ。
その中で、MFマルキーニョスの周りで、陰になり日向になり走り回っていた森島は
やはりどうしても目を惹いた。そして試合は延長の末勝利。昇格の歓喜を森島とともにした。
すっかり味をしめた私は、その年の天皇杯も引き続き注目した。セレッソは快進撃を続けた。
準決勝の横浜M戦は、暮れも押し迫った天皇誕生日。仲間と神戸ユニバー競技場に出かけた。
激戦の末、古豪横浜Mを下した時、神戸の競技場は、満員の観客が降る旗で桜色に染まった。
次の元旦の決勝は残念ながら敗れた。その報は四国の祖母宅に帰省する車内で耳にした。
悔しかったが、神戸での歓喜を思い出し、あんな喜びもあったのだからと自らを納得させた。
まあ、来年からJリーグで頑張ってくれるだろう。チャンスはいくらでもあるだろう、と。
その時、そのわずか17日後の神戸での出来事は、知る由はなかった。それは別の深刻な話だが。
チャンスは確かにいくらでもあった。
2000年の梅雨には、勝てばJリーグ・ファーストステージ優勝、という大チャンス。
そぼ降る雨の中、セレッソは一瞬のVゴールに沈む。雨の長居には、合羽姿で立ち竦む私がいた。
2002年の元旦、天皇杯決勝で破れ準優勝。ヨメの実家のテレビを無理言って見せてもらった。
結婚前から、図々しい限りである。ま、初対面から酒くらって寝てた私だ。今更驚かれなかったか。
2004年の元旦、天皇杯決勝で破れ準優勝。四国の祖母宅のテレビを無理言って見せてもらった。
大久保の退場、先制点を挙げられる、シュートを外す、その度に皆でのけぞった。
その中には、おそらくサッカーなどあまりわからんであろう、今は亡き祖母の顔があった。
その祖母が亡くなるのは、その半年後のことである。
2005年の晩秋には、勝てばJリーグ優勝、という大チャンスがまた、これでもか、と訪れた。
今度こそはと思ったが、今度もまた、ロスタイムに優勝がするりと逃げていった。
職場に行く途中に電気屋に寄り、足を止めて見ていたが、その時は悲しみを通り越して苦笑した。
あの電気屋の隣にドラッグストアがあったな。近くに飲み屋が… 前住んでいた町に
しばしタイムスリップさせられる。あの町でも、いろんなことがあった。楽しいこと苦しいこと。
オリンピックなどでよく「シルバーメダル・コレクター」などと言われる人がいるが、
セレッソのこの収集癖は、異様ともいえる。優勝争いをしつつも優勝はできず。
優勝争いをしてたと思えば下部に落っこちたりと。その波乱万丈ぶりは我が人生と重なる。
それが魅力ちゃあ魅力なのではあるが。阪神ともども、えらいのにひっかかったものだ。
森島寛晃の思い出、と言えば、
2002年W杯のチュニジア戦でのゴールとか、代表のフランス戦でのゴールとかを挙げる人が
多かろうが。そして本人も、チュニジア戦を一番の思い出として挙げているそうだが。
私の印象としては、森島の思い出にはやはり、どうしても涙がつきまとってしまう。
*****
それともう一つ。これは完全に自慢話の部類になってしまうかもだが。やはりせざるを得ない。
あれは忘れもしない、2000年だったか2001年だったか。(忘れとるやないか)
前の職場の休みを利用して広島方面を旅行したのであるが。パルコの裏あたりでお好み焼き食って
一応最大の目的を達し、すっかり油断してぶらぶら商店街を冷やかしていたところ。
商店街内前方の横の暗がりから、なんや、どっかで見た、ちびっこい兄ちゃんが、スーツ姿で
突然出てきた。あまりの油断、あまりの出来事に、一瞬状況判断ができなかった。「あ」と思った後、
「もも、森島さん?」 この言葉を発するのが、私ができた唯一の反応だった。
森島さんは、ペコりと頭を下げ、そのまま行ってしまわれた。まさに一瞬の出来事であった。
サインもらやよかった、写真撮ればよかった、せめて握手を、と後悔することしきりだが後の祭り。
「人生で忘れられない10秒間」というのを誰しも、いくつも持ってるだろうが、そのひとつである。
いや、まったくやられた。さすがは「影のストライカー」。電光石火の攻めであった。
そして、私如きに、頭を下げてくれた、その姿勢には彼の人柄が表れている気がする。
*****
そして明日である。
森島寛晃引退試合だったはずの試合は、セレッソがJ1昇格をかけた大一番となってしまった。
森島が出てくるかは微妙だが、総員一丸となり。森島が是非、最後は笑顔で終われるようにして欲しい。
昇格争い相手の仙台も結構好きなので、心境は複雑なのだが。そこは勝負の世界。仕方ない。
欲は言わないが、同点の後半残り5分で森島起用→奇跡の勝ち越し弾→試合終了、直後に他会場から朗報、
てな感じでええやろう。(欲以外の何ものでも)
明日は仕事なので観れないな、残念だな、と思っていたが。なんと正午キックオフではないか。
無理すれば観れてしまうではないか。と思った瞬間に反射神経的にチケットを買ってしまった。
頑張って行けるよう、仕事を鬼で片付けなければ。
私も頑張るし、セレッソも森島もよろ。(話のレベルが違)