SF珍道中6「拒否期」。






(1)なんとか大聖堂(名前失念)。
(2)朝のチャイナタウン。静か。静かすぎるくらい。
(3)テレグラフヒルから市街を望む。
(4)コイトタワー。中からの写真は撮影失敗。
(5)フェリーセンターのにぎわい。
カルチャーショックについての英文を昔授業で取り上げたことがある。
海外に出た人は、いくつかの段階を経てその土地の文化に適応してゆくとか。
見るもの全て新鮮で楽しくてしょうがない蜜月期を過ぎると、今度は全てが
嫌になって仕方ない拒否期に陥ると。そこを耐えれば、現実を受け入れられる
受容期が訪れ、ついには苦もなく生活を送ることができる安定期に到達する、云々。
当時はわかったふうな顔をして教えていたが、見ると聞くとは大違いである。
てゆうか、これは海外赴任や留学等長期間海外に出る人にこそあてはまる
話で、もっと長いスパンで考えるべきことなのだろうが。たかが三泊旅行の私が
また知った顔するのも、違う話だとは思うのだが。それは重々承知のうえだとして。
この三日目にきて、私は、見るもの聞くもの嫌になっていた。それは確かである。
また、こういう立場に陥れば、いろんなものに守られて分かっていなかった
生身の自分がむき出しとなり、それをまざまざと見せつけられる。それが苦しい。
成田離婚とはよういうたもので。正体がわかってしまえば、またそれを受け入れる
ことができなければ、百年の恋も覚めますよ、てなところで。話はそれるが、
新婚旅行の価値は、案外こういうところにあるんかもしれない。試練の場てゆうか。
行ったことないけど。婚前旅行(なんか響きが嫌)なら行ったことあるんだけど。
閑話休題
じゃあ、生身の私とは。なんだろう。苦境に陥るとすぐヤケッパチになること。
あと、乏しい語学の力もそうだが、それ以前の、瞬間的情報処理能力の乏しさだろか。
ま、端的に言えば、どん臭いのだ。それは前からわかりすぎるほどわかってはいたが、
こういうところに来ると、ほんまに救いようがない。
三日目の朝は、昨日の決定事項として、やはり隣のバーガーキングに行った。
列に並んでいる最中に何度もイメージトレーニングをし、注文まではなんとか果たすも、
値段を聞き、慣れないアメリカの小銭に四苦八苦している間に、店員はもう次の人の
注文を取り出す。こうなるともう焦りだす。やっとのことでお金を用意しかけると、
表示金額と自分が聞き取った値段が食い違っているので、また混乱する。あれ、
ほんまはどうなんやろ、あー、後ろ並んではるし、あーわからん。あーもう、ええわ、
えーい。10ドル、バーン。そしたら店員、それとそれとそれを出したら、私がこれだけ
返すから、それでいいじゃん、と言ってるみたいなんだが、英語の聞き取りがまずいのか
あるいは数字に弱いのか、あるいは単に頭が悪いのか、またそれがわからん。
最後には店員、もうええ、貸せ、と私の握っている小銭から、必要なだけつまみ上げ、
おつりを返してくれた。またそれが、あってるんだかなんなんだかわからん。
凹みつつ食べたハンバーガー、味は全く覚えていない。
今回はたまたま店員が手伝ってくれたからよかったが。万事がこの調子だから、イタい。
で、「えーい10ドル」を繰り返すもんだから、私の財布は小銭ざくざくであった。
日本でこういう状態を「ちゃり銭大臣」というから(どこで)、さしづめアメリカでは、
「ミニスター・オブ・チャリ・チェンジ」といったところか(チャリ?)
話はよれるが、5セントより10セントの方が小さい、あれはなんとかならんのか。
あと、「ダイム」て書くな。わからんいうねん。別の買い物のとき、今度は間違えんぞ、
と硬貨を睨んでいたら、後ろで並んでいるオバハンがひとこと「Ten cents」とご教授。
あまりの不意打ちにびっくりしたやら。はずかしいやら。
もういやや。帰りたい。
その気持ちをなんとか抑えつつ、せっかく来たのだから、と観光を続ける。
しかし、バスに乗らないと行けないところは行かず。初日くらいの元気な頃なら、
「バスに乗るぞ!バスはどうやって乗るのかな!」となったのだろうが、完全に倦怠期で。
「乗り方わからんし、めんどくさいし、電車と歩きでええわ」となってしまった。後悔。
ケーブルカーを横目に見ながら急坂を歩いてあがり、ノブヒルを冷やかす。しばらく公園で
ぼうーっとしたのち(聖堂の前の公園=写真)、今度は坂を降り、チャイナタウンを通過。
ここでもいろいろやりたかったのだが、しんどかったのと、朝早かったので、何もせず。
ただ、公園で大量のおばさん・おばあさん達が、集団で太極拳みたいのをしていたのは
面白く、しばし見とれる。「イーアルサン、アルアルサン、サンアルサン、」と掛け声。
ベリーキュート、であったよ。しかし怖くて写真は撮れず。
チャイナタウンの先の、イタリア人街みたいのを通り抜け、今度は住宅街に上がる。
あまり情報もなくうろうろすると危険ではあるのだが、この辺の私はほんまヤケッパチで。
ま、それもありかな、みたいな感覚になってしまっていた。ほんま反省したい。
住宅街の頂上には、コイトタワーという塔があって、市街を見渡せるとかなんとか。
ガイドには「歩いていくとしんどい、バスに乗れ」と書いてあったんだが、やはりバスには
乗りたくなかったので、反して歩いて行く。やはりしんどかった。ガイド、正しいよ。
コイトタワーは、一階が売店となっており、そこで切符を買って、エレベーターで上がる、
というシステムだった。エレベーターは旧式で遅く、来るまでに時間がかかったので
しばらく売店をぶらぶら。と、エレベーターが来たので、乗り込もうとするが、今度は
切符が見つからない。他の乗客を待たせて、ポケットをチェック。ようやく見つかるが、
エレベーター内の空気は冷たい(ように感じる)。すみません、どん臭いばかりに。
もういやや。帰りたい。
市内の展望を楽しみ、降りたあと、やはりさっき見た商品を土産に買おうと売店に戻る。
と、「ちょっとー、それ、とっちゃだめ、ママに貸しなさい」と日本語が聞こえる。
売りもののボールを手にしたボウヤが、ママに叱られている。黒髪と黒い瞳が懐かしい。
日本語。日本人。ちょっと心が動く。海外旅行した人なら共感いただけようが、
海外で日本人に会うと、珍獣を見たかのような感覚になる。いやそれじゃわからんか。
なんか、嬉しいような、恥ずかしいような、不思議な感覚になる。そのボールがころころ
私の方へ転がってきた。私は拾い上げ、ボウヤに返した。ママは私を見て返事した。
「あ、サンキュー」(英語) でボウヤにも、「ほら、なんていうの、こんな時」(日本語)
「さんきう…」私は返答に困った。海外に慣れた人はこんなベタな観光地に来ないだろう。
ならば「ボウヤとママの海外経験」に一役買おう。で「謎の東洋人」のまま通すことに。
といって、拙い英語ではバレるかもなので、にっこり笑って手を上げるにとどめた。
私を何人と思ったんかな、あの親子。サングラスと無精ヒゲ、ぼろい服という風貌が、
私が日本人かもしれないという想定をなくさせたのか。じゃ、日本人である、て何だろうか。
アイデンティティ・クライシスに陥るとともに、日本と触れ合う機会を失ったことに後悔。
もういやや、帰りたい。
コイトタワーから住宅街をまた抜け、海辺の麓に下りた。しばらく海沿いを南下(東?)し
昨日通ったフェリーセンターに再び行く。何曜日だったか忘れたが、この日はここに市が
立っているはずだ。しばらくめぐりお土産も二、三求める。食事もしたかったが、この体調で
屋台の食べ物を食べるリスクは冒せない。おいしそうなものはいっぱいあったが。
クレープ、タコス、フルーツ、ナン、トーフ(!)と世界中の名物が並ぶ。しかしじゃあ、
アメリカの名物、てなんだろか。ハンバーガー?ホットドッグ?どうもぴんと来ない。
いちばんアメリカらしいものは、と巡ると、「Obama 2008」と書いたステッカーを
ぐるぐる回しているオッサンが、オバマTシャツ、オバマステッカー、オバマバッジなどを
販売していた。さすがにオバマ饅頭、オバマ煎餅はなかったが。そしてどうでもいいが、
オバマバッジはアメマバッジに似ている(ローカルネタ・しかも世代限定だな)。
Tシャツはさすがに高すぎな(のと着れない)ので、バッジかステッカーくらいネタに
買おうかと近づく。すると、民主党に投票するための登録を云々、ときた。
いや、してもいいけど僕はUSシチズンじゃないからと。そしたらじゃ土産でも、と。
というわけで、オバマステッカーとオバマバッジを買う。ノンポリな私だが、
米国民主党に寄与してしまった。しかも4ドルも!(安)
いい経験だったが、日本帰ったらネタになるなあとか考えたらまた、帰りたくなった。
頃は昼時、時差の関係からか、この時間になると強烈に眠くなってくる。
一度宿に帰ろうと近くまで来ると、宿の前に「タイヌードル」なる店があるのに気付く。
麺類評論家の私としては見逃せないところ。さっそくトライすることに。
ネギラーメン風なのを頼もうとしたが、なんかふと、チャーハンも食いたいなあ、と
思ってしまったのがいけなかった。日本のチャーハン定食の感覚に捉われてしまった。
ここはアメリカであった。殺人的な量のラーメンと、殺人的な量のチャ… ん?
なんと、写真だけ見てなんとなく決めたのがいけなかった。あーこれ、うまそう、
ナシゴレンみたいのかな?と思っていた料理は、なんと「はるさめ」だった。
店員、なんか言えよ。いや、言ってたんが聞こえなかっただけかもしれんが。
しかし、あわてふためき、わからんと注文したと思われるのもシャクなので、
さも、当然わかってて注文した、というフリをし、平然と、「はるさめ」をおかずに
ラーメンを食す。いや逆かラーメンをおかずに「はるさめ」を…まどっちでもいいや。
行きがかり上、残すわけにもいかず、日本男児をなめるな、とばかりに死ぬ気で食う。
全く、あほらしいばかり。
もういやや、帰りたい。
もひとつおまけに。いややったら、ホテルに閉じこもってたらよかったのだが、
そうなったら負けやろ、とばかりに私は無理矢理出かけていた。ホテル近辺をぶらつき、
とある商店に入った。やや怪しめの店であったが。そこで、とある商品を二つ、
求めようとした。いっぱい展示されていたが、値段がない。そこで店員に聞いた。
「ナインティーン、オア、モア」と確かに彼は言った。ああ、それなら妥当やな、
じゃ二つくれ、と言ったら、裏の棚から値札つきのを出してこようとした。
それを隣にいた別の男がとどめて、なんか細工をしていたような気がする。
今から思えば、値札を付け替えていたんではないかと。別の男の方が、言った。
「二つでシックスティだ」 ん、シックスティーンの聞き間違いかと一瞬思ったが。
「は?ナインティーンて言ったじゃん」と言い返したが、彼は「オアモア、と言った、
これはトェンティナインだ。税金でシックスティは超えるが、シックスティでいいわ」
と。元気なら、もっかい見せて、とか、これが10ドル高い理由は、と追求したろうが、
何回も書くが、私はしんどかったので、オッケーそれでいい。と買ってしまった。
まいどあり、と店員は満足げで恭しく商品を渡してくれたが、店から出たあと、
ガラス越しに、私が渡した(洒落でなく)60ドルをパタパタ揺らして二人で笑ってる
(ように見える)姿が目の隅に入ったような気がする。いや、売り上げがあったから
喜んでるんだろう、そう言い聞かせたかったが。ううん。騙されたんかな。
しかし、騙す騙したより、捨て鉢になって議論を放棄した自分が情けなかった。
もうほんま嫌や、ほんま帰りたい。
来るんじゃなかった。高い金払って。
あほみたいや。
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しかし、帰るわけにはいかなかった。
この旅のメインイベントとも言えるオークランド行きが
もうすぐそこに迫っていたのだ。
と盛り上げるだけ盛り上げといて、次回に続く!