裸の王様・流亡記。

読了。
短編四作が収められていた。「パニック」「なまけもの」も
よかったが、表題となっている二作がやはり印象的だった。
「裸の‥」を読んだのは実は初めてではない。小学校の時の塾で、
国語の教材かなんかで部分的に読んだ、もとい読まされたのだ。
大人の凝り固まった価値観、そしてそれに歪められる子供。
それに対する挑戦、反抗。そういったテーマの作と解釈するが。
当事の塾講師は、なんで当事の我々に、これを読まそうと思ったのか?
彼自身の挑戦であり反抗であったのか。または我々に対する強烈な
皮肉だったのだろうか。いずれにせよ、そのメッセージは、あまり
当事の我々には伝わってなかったのかも知れない。いや、20ウン年もの
時をこえて、今私にしっかりと伝わっているので、彼の意図は十分に
果されているのかも知れない。講師と生徒の関係って、こんなもの
なのかもしれない。即効性はないけど、じわじわ効いて来る。心せねば。
「流亡記」は、普通のような王朝を中心としたものではなく、
民の目線から描かれた中国史である。時代と時間に隷従せねばならぬ人間。
しかしそれは本当か。そう思い込んでいるだけではないのだろうか。
「壁」を築く場面に非常に象徴的だったのだが。我々は、とてつもなく
大きな構造の無限小の細部を割り当てられている。それをどう取るか。
それに甘んじるのか。そこから逃れえるのか。むむ。無限ループ。
ともかく開高さん。重いテーマと論理的な文章もそうなのだが、
「におい」の使い方がうまいなあ、と思った。脳のにおいを感じる部分と、
記憶を司る部分は近い、と聞いたことがあるが、それもあるのか。
においを想像するとイメージの輪郭が非常にはっきりしてくる。
このページも、そういう、むせかえるような臭いがたちこめるもの
にするのが理想である(アクセス減るよ)
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「彼の髪は藻と泥の匂いをたて、目には熱い混乱がみなぎっていた。
 そのつよい輝きをみて、案外この子は内臓が丈夫なのではないかとぼくは思った。
 空気には甘くつよい汗の香りがあった。」 『裸の王様』
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「流れただよう、孤独で凶暴な点にすぎぬ彼らは壁を見て焦燥をさそいだされるのだ。
 蟻のようにせっせと煉瓦をはこぶ仕事場の私たちに彼らがニンニク臭く生温かい
 痰を吐きかければ吐きかけるほど私たちはそのことを確認した。」 『流亡記』