妊娠小説。

妊娠小説 (ちくま文庫)

妊娠小説 (ちくま文庫)

読了。
ヨメの本棚にあったので、何気なく読み始めた。
なんと直接的題名、これはもうどんなにものごっつい場面に溢れた
小説だろうかと手を震わせながらページを開く(あほ)が、当初
期待していたようなsensualなものではなく、すこしがっかり。
しかし、知的ユーモアに溢れた評論タッチにぐいぐい引き込まれる。
そうか、こういう小説の読み方もあるのか、と目から鱗
つうか、これまで自分は何を読んでいたのだろうか、と反省も。
今後の読書に絶妙なるスパイスを与えてくれること請け合い。
*****
詳しい説明は省くが、望まない妊娠とそれを巡る男女の人間模様を
扱った小説。それを筆者は妊娠小説と定義している。
世界には、二種類の小説しかない。
妊娠小説と非妊娠小説である。なんのこっちゃ。
そしてあなたは妊娠小説を自ら選択することはできない。
それは向こうからやってくるものである。
この事実を知ってしまったが最後。あなたは小説を読むたびに、
筆者の言葉では「大脳皮質内に高らかなファンファーレが鳴り響く瞬間」
今風に言えば(今か?)、「妊娠キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!?」という感動。
それを待ち焦がれる気持ちという呪縛から離れられなくなる。
これは非常に恐ろしいことである。
出会いの感動こそあれ、今まで一生懸命読んできてこれかえ、という憤怒。
まさに諸刃の剣。まあこれも面白さっちうたらそうかも知れないのだが。
*****
この本の面白さを一口で言うのは難しいが。部分的に取り上げれば。
構造分析のところが特に面白かった。妊娠小説構造を野球にたとえる
ところが特に(またオタクか)。
「淡々としたゼロ行進が続き、うーむこのままでは延長必至か、と
 思いはじめた8回または9回。そろそろ疲れが見え始めた先発ピッチャー
 の一瞬のスキを突いて、高く舞い上がる受胎告知ホームラン」、実にいい。
「バックスクリーン妊娠三連発」も捨てがたいが、やはり一番の感動を呼ぶ、
試合もとい小説はやはり前者のパターンだろう。秀逸である。
また、物語類型分析のところも「要約フェチ」の私の目を引いた。
「【青年打撃譚】若い男が恋人の妊娠で打撃を受ける話。
 《要約》彼にはときどき性交をする恋人がいます。そんなある日、彼女が
 妊娠しました。彼は戸惑いましたが、けっきょく彼女は妊娠中絶をしました。
 そして彼は傷つき、なにかが変わってしまったことに気づいたのでした。」
こんなであるが。結局要約するとこんなになってしまう映画とか、あるいは
人生相談とか、多いような気がするな。中絶こそ縁がないけど、
私の青年期など、これと大差ないかもしれない。
いろいろな類型が並べられているが、全てに関し、男は弱く惨めで、
女の強さが目立つ。まあ、読んでいるのが私だからかもしれんが。
ともあれ、、、男は妊娠できんのだから、ね。幸か不幸か。
*****
この本にケチをつけるわけではないが、、、、 世界で一番多く出版され、
読まれている妊娠小説を扱ってないよな。あ、小説、というのも失礼か。
「全くけがれなき受胎」という世にも不思議な話ね。
この観点で切ってみれば、また違ったものが見えるかもしれない。
いや、これを持ち出すと、話がシャレにならないのか。そうか。