体験レポ・第9回T塚ハーフマラソン。


すっかり遅くなってしまったが。
昨年の天皇誕生日。ここでの報告の通り、ハーフマラソンを完走した。
思えば辛く、厳しく、痛々しく、それでいて気持ちいい体験だった。マゾかいな。
いや冗談でなく、マラソンというものは、根源的にマゾ的快感を求めてのものか。
はたまた自己サド的ていうか。そういう複雑なバランスの上に成り立っているのかも。
当日朝は、クウォーターを走るヨメとともに、既にランニング装束に着替え出かけた。
この点、地元の大会というのは好都合である。自分は昨秋に続き二度目であるが、
ヨメは初の大会参加。緊張の様子。ちらほら見受けられる参加者とおぼしき人の姿が、
その緊張に輪をかける。会場に到着。早いかとも思ったが、すでに人でごった返している。
受付を済ませ、かじかむ手でゼッケンをつけ、さらに参加賞の「アトムTシャツ」をゲット。
「お楽しみ抽選」はスカをひき、あめ玉のみで少ししんなり。
ハーフとクウォーターは仮装は禁じられているはずが、それでも、「たこ焼きの人」とか
「ナスの人」とか「Tカラジェンヌ風の人」とかギリギリの工夫をしたランナーがいて、
それを見るのが楽しく。機嫌を取り戻した。
開会式が始まる。T塚市長の明るい挨拶と、Tカラジェンヌ(本物)はじめとするゲスト紹介。
明らかにランナーと関係ない、Tカラジェンヌの追っかけ婦人連が取り巻き、異様な光景。
そしてドクターの諸注意。「昨日飲んだ人〜、薬飲み忘れた人〜、どこか既に痛い人〜
今すぐ走るのをやめてください〜〜」という緩くも厳しい注意が笑いを誘う。
さらに、地元フィットネスクラブのインストラクターによるエアロビクスが始まる。
朝からこのハイテンションはきつい。そしてサイドステップを踏んだ時すでに腿に違和感。
思えばこれが後の地獄へのプレリュードであったか。或いは今後自分の克服すべき弱点か。
トイレに行こうとひとり長蛇の列に加わっている時に召集が始まり、焦る。
ヨメとは健闘を誓う言葉もなく、なんとなく別れた。最後の言葉は「トイレ行くわ」だった。
(ハーフとクウォーターは同時間にスタート。クウォーターが先に呼ばれる)
スタート位置へ移動。持ちタイムを控え目に、制限時間ぎりぎりの2時間30分と申告したために、
自分のスタート位置は最後も最後。「花の道」のずーっと後ろとなってしまった。
スタート時間を超えたようだが、号砲もよく聞こえず、え、始まったの、動くの?と。
これまたなんとなく始まった。「なんとなく」が今日のテーマか。道は遠い。焦らずいこう。
と、なんやしらん、「ジャイアンの歌」みたいな歌声がスピーカーから響き渡ってきた。
「♪そ〜ら〜をこえて〜 らららほ〜し〜のかなた〜〜〜〜」
うわさに聞いていた、T塚マラソン名物「市長のリサイタル」である。もうなんか、ゆるゆる。
「♪ジェットのかぎり〜〜 そ〜らをこえて〜、え、なんだっけ、らららかがくのこ〜〜」
心優し、やろ、という脳内のツッコミもむなしく。なんかズレた感覚のままT塚の街に飛び出す。
T塚大橋を渡り、T塚南口の角を曲がって南下。この辺は自分は深夜に酔って歩くことの多い場所。
その地を朝もはよから、健康的に走っていることが感慨深い。声援も多く、テンションが上がる。
が、すぐに市街地を離れ、M庫川の河原へと降りてしまう。この先はえんえんと、リバーサイドランだ。
贅沢を言えば、もう少しT塚らしいところを回らして欲しいんだが。警備の都合とかがあるのだろう。
しかしここM庫川は自分のホームグラウンド。何度も走り、勝手も距離感覚もよおく分かっている。
その距離感覚に照らすと、今の足の状態はやばい。まだ5キロやのに。右足ちゃん、もってくれ…
願いも空しく、7キロくらいでもう右ひざが痛み始めた。ううむ。恐れていたが少し早かった。
読者の方で注意力と記憶力のある方には、あれ?左ひざじゃなかった?と疑問に思われるかも。
そう。「左ひざ問題」を解消するために大阪はGランフロント(伏せる意味は)に出向いて、
いろいろ調べてもらったうえ、おニューの靴を買っていたのだ。そしたらなんとまあ不思議。
左ひざはぴたっと嘘のように痛みがひいた。かわりに、右ひざが痛くなりましたとさ。て落語かよ。
さすがにやめといたが、かたっぽは前の靴、かたっぽは新しい靴を履いたろかと思ったほどだ。
そしたら両方痛くなくなるんじゃないか、と。(間違えて両方痛くなる、という悪寒もするが)
右足をなだめたりすかしたり、腰を回したり腕を伸ばしたりしながらなんとか走り続けた。
ここいらで、クウォーターのトップ選手が折り返してきたのとすれ違う。速い… 凄い筋肉…
コースの構造上、大半のクウォーター選手とすれ違うこととなっており(それが少し怖いが)
周りでは、知り合いを見つけてハイタッチをかわす選手同士がいた。なんか、いい光景だ。
ようし自分も、と。トイレに行って別れたままのヨメを探した。だいぶと時間が経った後、発見!
必死で手を振ると気づいてくれた。そしてハイタッチ!!!…は、空振り。なんと残念。
自分の運動神経のなさを呪うものである。
その後はまさにひとりの闘いとなった。右足は痛みを通り越して、痺れた感じになってきている。
辞める勇気も勇気なんだろうが、その勇気もなく、ひたすら惰性で走り続けた。
しかし反面、光る川面を、風にそよぐ松を見、ランナーの息づかいやザッザッザとという足音を聞く。
ああ、なんかいいなあ、走ってるなあ、生きてるなあ、ありがたいなあ、と喜びがこみ上げてきた。
冒頭にも述べたが、痛気持ちいい、苦し楽しい、泣き笑い、その永遠の矛盾こそマラソンの醍醐味。
足は痛みを突き抜けたのか、逆に楽になってきて。後半でばててきている前の人々をごぼう抜き。
ボランティアの人々の声援が嬉しい。
たこ焼きの人を、ナスの人を、どんどんかわしていった。しかしなんやろ、自分がどうとは
言うつもりないけど、明らかに見た目「普段走ってないな」て人が沢山前の方にいるのは、どうか。
聞けば、スタートで前の方に行きたいがために、持ちタイムでサバを読む人がいると聞く。
ラソンブームで走る人が増えたはいいが、最低限のマナーは守って欲しいところだ。
失礼、それはまた別の話。
ナス、たこ焼きはまだしも、Tカラジェンヌはなかなか手ごわく。終盤自分とデッドヒートを演じた。
しかし自分は完全なランニング装束やのに、相手はTカラジェンヌ衣装で。あれ着て走るのは、
本当にすごいと思う。それだけに、絶対負けられん、と意地になった。わずかにリードした。
そしてゴールが見えてきた。最後の力を振り絞りラストスパート。そしてゴールイン。
ゴールの感想は、多くのランナーが言うように、「こんなもんか」という感じで。
言い換えると、「おおそうか」と言ってもいいだろうか(あまり言い換えてないか)。
練習の時、本番のゴールシーンを想像しただけで、ちょっと泣いちゃったりしていたので、
本番では自分はどうなっちゃうのか、涙で顔がずるずるになるんじゃないかと心配していたけど。
実際には「もう走らなくていいんだ」という安心感が、心理の大半を占めていた。
気が抜けると、また足が痛くなってきた。足を引きずりながら、ご褒美のドリンクと完走証を受け取り、
河原の土手の上で待っているヨメを見つけた。ヨメよ、我が勇姿を見たか。惚れ直したか。
会って聞けば、「Tカラジェンヌに気を取られてて、あなたを見逃した」ということだ。ぬぬう…
Tカラジェンヌ。勝ったつもりになっていたが、その実は完敗だったわけだ。
振る舞いの豚汁は、そのこともあってか、いささか苦い味であった。
毎回走った後思うが。リベンジだ。そうやってハマってゆく。
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<今回の記録>
21.0975km 1時間59分54秒 1009位(2394人中)