『南海ホークスがあったころ』。

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西の雄、福岡ソフトバンクホークス。今年も優勝候補の名門チームである。
よくパ・リーグの試合を観る方はお気づきかとも思う。安打や四球などで、
ソフトバンクの選手が塁に出ると、喜びのファンファーレが鳴るのであるが、
それはかの日本人誰もが知る唱歌・「線路は続くよどこまでも」のサビの部分である。
おそらく多くの人は、気にも留めないであろう。球場のファンも、喜ぶのにただ忙しく、
はた、と留まって考えることもあまりないかと思う。しかし改めてなぜ、この歌なのか。
それは、かつてこのチームが、鉄道会社によって確かに所有されていたからである。
多くの人はもう、このチームが流通会社によって所有されていたことさえ忘れてしまって
いるかもしれないが。わらべ歌が歴史を語るがごとく、過去を如実にさらけ出しているのだ。実は。
名門巨人軍を中心とする、プロ野球の「正史」は、長嶋・王が昭和という時代を作った、と述べる。
そのこと自体は至極真っ当な事実である。ただ、「正史」は常に勝者から語られるものである。
勝者の栄光の花も花であるが。その陰でひそやかに咲く花も花であり、それもそれで美しい。
本書は、通常の「野球史」で語られるような、勝者による公の歴史からは一線を画しており、
ただただ、ともすると歴史の波に埋もれがちである思い出のかけらを、一市民の、一ファンの視点から
ひとつひとつを拾い上げ、それを美しく積み上げたような感がある。否、野球史であるにとどまらず、
これは社会史と言ってもよいような感もある。二人の、かつての鉄道球団をこよなく愛していた
研究者の手による本書は、話は微に入り細をうがち、脚注も多く、よほどの気合いか偏愛がなければ、
なかなか読み込めるものではない。事実、私も何度となく挫折をした。あまりのオタク本だから(おい)。
しかし今回は、周囲のパ・オタ面々の気持ちも汲み、何とか頑張れ、それによって読破できた気もする。
繰り返しになるが、本書は球団史にとどまらず、往時の経営者の哲学とか、理念とかすら垣間見れる、
経営史の教科書とするにも値する良書ではないだろうか。自分もこんな研究がしたかった、と後悔しきり。
後悔と言えば、もっと若い頃に、このチームに注目していたかった。少なくとも一度は大阪球場を訪れたかった。
別件で打席に立ったことはあるのだが(悪夢=過去に詳述)。現在もソフトバンクに残るチャンステーマは、
かつての南海・デビッド選手のテーマの残滓である。自分の中ではこれは「ふじひろ」のテーマであって、
そんなんではモグリと言われても仕方ない(誰から)。金本の旧テーマが星野修のテーマだったのは知っても、
高井一のテーマだったのは知らないみたいなもんで。て細かすぎて伝わらないネタだ。
阪神の話が出たついでに言ってしまうが、本書を読むと、阪神ファンであることが一段と恥ずかしくなる。
なんや、打倒読売の先鞭みたいな面してるけど、蒸し返せば、両リーグ分裂のとき読売の金魚のフンとなって
ついて行ったのはどこのチームか、ということである。また、大阪代表みたいな面を常にしているのも、
傲慢というほかないであろう。我々阪神ファンは、今も昔から応援しているチーム相手にぼやいているという、
その小さな幸せを今なお有することも含め、思い上がっているのではないか、と。改めて痛感させられた。
今は亡き良きチームに永遠の愛を誓っている方々に比すと、あまりに中途半端な愛と、言わざるを得ない。
中途半端と言えば、自分は野球部を辞めてウロウロしていた時に、短期でブラスバンドに所属したことがある。
その短い滞在での唯一の成果が「佐々木誠の応援歌をトランペットで吹けるようになったこと」である。
何故佐々木だったか、それで満足したか、何故自分はブラバンを去ったか、記憶に沈んで全く思い出せないが。
そして今も吹けるか、そもそも、何故吹こうと思ったか、吹かねばならなかったか。全く解決できぬ疑問だが。
唯一確かなことがある。その年に南海ホークスはなくなったのだ。
そのことと、自分の逡巡は関係あったんだかなかったんだか。それはわからない。
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すんません、なんかまとまったのかまとまってないんだか…酔っぱらって書いてますので。
ヨメがいないのをいいことに・・・ ともかく本書はお勧めです! てお勧めになってんだか・・・
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<本日の言葉>
「日本の戦後史を、もっと限定すれば高度経済成長の時代を、読売ジャイアンツというチームや長嶋茂雄
という人物をもって描こうとする人がいる。…(中略)…長嶋の現役引退を、右肩上がりで国が豊かになった
時代の終焉としてとらえるのは、典型的な歴史記述といえよう。
 しかし、それは、歴史を限られた視点から圧縮した結果である。野球の歴史は、プロ球団のそれだけを
とってみても、それぞれの都市に独自のものがある。とりわけ、敗戦から高度成長にかけての時代だからこそ、
希望と絶望が混ざり合う波乱に満ちた独自の歴史があった…(中略)…私鉄が都市の成長と大きく関わった
関西圏では、鉄道会社によって設置されたチームの消長が、約半世紀の歴史を語るうえでは欠かせない
項目だと言える。」              本書まえがきより