兵どもの記。

Moulin2005-07-13

先日映画鑑賞後、大阪市内に繰り出して。
ナンバから天王寺に流れ、最後は串カツで締めた。
途中なんばパークスという商業施設に立ち寄った。
近代的な構造に空中庭園を設えた瀟洒な外観、
そして小洒落た専門店街が売りなのだが。
この施設、かの南海ホークス(現福岡ソフトバンク)の
本拠地たる、大阪球場の跡地に建てられたものである。
ショッピングを楽しむ若者よ。ご存知か。
今当時をしのばせるものは無い。ただタイル張りのプレートを除いては(写真)
このプレートの側に立ち、人目憚らず構えを取った。ふ。17年、いや18年ぶりか。
実はム、この打席に立ったことがあったのであるよ。期せずして思い出が噴出し。。。
時計は18年前に遡る。
あの夏、南海ホークスの四番を打っていた筆者は。。。 嘘である(つまらん)
あの夏、わが弱小野球部は珍しく3回戦まで進出。一回戦はクジ運により不戦勝。
二回戦はこれもクジ運により、明らかに急造ぽい寄せ集め集団と当たり快勝。
背番号13を背負った一年坊主のムは、一部始終をベンチから見守った。
三回戦では大阪球場という晴れ舞台が用意された。相手は上位経験もあるまずまずの強豪。
ナンバの繁華街を抜けると突如として球場は現れる。やはりプロの使う球場。
久宝寺球場とは大違いである。掲示板がでかい。普段「門田」とかなんとか出るあすこに
名前が出んだよ。ロッカー室もある。廊下がひたすら長い。廊下を歩いていたら、
前の試合で勝った上宮高校とすれ違う。すげー。顔イカつすぎ。まるでオッサンやないか。
おお、あれが甲子園で見た元木かあ。。(当時元木氏ねとは夢にも思わず)
あっちは、種田かあ。。 やっぱすげえなあ(当時ガニマタ打法ではなかった)
そんなすごい人々がずらりと並んで「お疲れ様です!」と挨拶。うえー、すげえ
この一糸まとわぬ、もとい乱れぬ挨拶何? 俺らに敬語使ってんで、きもいで。
と、長々書いてしまったが、ともかく、試合前から完全に浮き足立っていた。
結果は予想されていた。心配されていた守備が早々と崩れ序盤で大量失点。
7回表までに0−7と7点のビハインド。7回裏の攻撃で点が入らなければ、
コールド負けというところまで追い詰められた。ここで監督は「思い出代打攻勢」に出た。
「もち男(当時の名称)、バット振っとけ。三人目で行くぞ」 とムに声がかかった。
監督は内心、最後のバッターはこいつだろなと思っていたのではないか。させてなるか。
意地見したる。ベンチ裏で必死でバットを振り込んだ。しかし状況がかわってきた。
前の二人が連続ヒットしたのだ。盛り上がるベンチ、湧くスタンド。ここで切り札登場。
背番号13を背負う一撃必殺の殺し屋ムーラン、じゃなくってもち男。舞台は整った。
レフトスタンドに3ランだな。いや、それじゃ3点返せても4点差あるから。
まずはランナー溜めるこったな。ヒットでも四球でも死球でもなんでもいいから出る!
つなぐ! 絶対勝つ! とピッチャーを睨みつけ投球を待っていた。さあこい!
「タイム!」 ベンチの主将から突然声がかかった。「もち男、ちょっと来い」
ム「何か?」
主「バントせえ」
ム「へえ??」
バントォ? 7点差の7回無死一二塁でバント? 何考えてんだか。
勝つつもりならアウト増やしてる場合ちゃうやろ。ああ、コールド封じに1点ね。
そんな弱気なことでどうすんねん。俺の打撃そんなに信頼されてないんかなあ。
あんなに素振りしたし、あんなに筋トレしたし、それを見てくれてへなんだのかなあ。
ぐじゃぐじゃ、ぐじゃぐじゃ。こんな気持ちでやったバントが、うまくいくはずも無い。
スローモーションのように覚えている。ギン!と済んだ金属音。バットの芯に当たった!
一直線に伸びる打球はピッチャーのグラブに吸い込まれる。一死!
ピッチャーは振り向きざまに二塁へ送球。ランナー戻れず。二死!
そしてボールは一塁へ。。。 わーやっちまった。どないしまひょ。。。
とりあえず今どうすれば。。 わからん、わからんけど、とにかく走ったれ。。。
既にアウトになった打者が一塁に走る。ルール上は許されている行為なのか知れない。
しかし無我夢中で走った。そのとち狂った行為に二塁手がビビッたか、送球がそれた。
かろうじて、三重殺は免れた。いや。。やられとった方がネタ的には美味しかったか。
結局次打者が凡フライで試合終了。高一の夏が終わった。そして事情により二年までに
ムは野球を辞めてしまうので、実はこれが最後の夏になってしまうのである。
即ち、大阪球場のこの打席でやった併殺打、ムが高校野球史に記した唯一の記録なのだ。
なんてことだ。。 いや。。。
夏の高校野球。全国四千ものチームが大優勝旗目指し激突するトーナメント大会である。
一度も負けることは許されない。一度も負けなかった者にのみ栄冠は輝くのである。
即ちひとつの栄冠の影には四千もの敗北がある。それが栄冠という山を高く聳えさせる。
なるほど高みに上り美酒に酔う(飲んだら出場停止だが)人間は一握りでしかない。
しかし、である。高校野球に携わる者は全て、その栄冠という山の一部ではないだろうか。
ま、たとえ麓も麓、標高1mmくらいであったとしても。1mmがなければ4000mはないのだし。
と、最近思えるようになってきたのだが。詭弁かもしれない。
ともかく、また夏は来る。
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タイル床 兵どもが 夢のあと  夢乱
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どこかで見たような